クレジット情報
◆ 『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』 (原題:The Killing of a Sacred Deer)(2017年)
◆ 監督:ヨルゴス・ランティモス (『ロブスター』『女王陛下のお気に入り』 『哀れなるものたち』など)
◆ ジャンル:サイコホラー、スリラー
◆ キャスト:コリン・ファレル、ニコール・キッドマン、バリー・コーガン ほか
◆ 配給:FINE FILMS(2018年)
この映画を一言で表すなら
究極の選択!悲劇を待つか、自分で起こすか。
なぜこの映画を観たいと思ったのか?
私はジャンルレスで唯一無二で変な映画が大好きです。観る前は「何だろうこれ!?」とワクワクし、観た後は「何だったんだこれは!?」と思ってしまうような笑
今回の映画はそんな映画をたくさん手掛けているギリシャのヨルゴス・ランティモス監督の作品です。
2023年11月公開の新作『哀れなるものたち』も公開間近ということで、改めてこちらの傑作を再鑑賞してみました!
また、こちらは今をときめく配給会社A24が北米配給権を獲得した映画です。映画好きとして欠かせない一作となっています。
誰におすすめなのか?
・後味の悪い映画が好き
・綺麗な映像が好き
・想像のつかない展開が好き
・A24作品が好き
というような方にお勧めです。
どういうとき、気分のときに観るべきか?
・逆にイライラしたい時
・恐怖にゾワゾワしたい時
・変な映画を観たい時
にお勧めです。
総評
幸せに暮らす4人家族のもとに、ひとりの少年が介入し、次々と奇妙な出来事が起こり始める…
このあらすじを読むと、映画史に名を残すあの映画、ミヒャエル・ハネケ監督『ファニーゲーム』を思い出す人も多いかと思いますが、本作も負けず劣らずの後味の悪さを楽しむことができます。
ヨルゴス・ランティモス監督の特徴的な演出は、やはりカメラワークと不協和音的な不気味な音楽。
広角レンズ(この後の作品では超広角レンズや魚眼レンズなども多用しています)やじんわりズーム、一点透視図法的な構図(スタンリー・キューブリック監督で有名ですね!)、斜め上や少し違和感のある角度から撮る人物ショットなど。
それにBGMが組み合わさると、なんでもない日常すら異質な何かが潜んでいるように見えてきます。晴れた日の明るいショットすら不気味に見えてくるので、その点はアリ・アスター監督『ミッドサマー』にも通ずるところがありますね。
途中、部屋の電気をつけたり消したりする動きに合わせてカットを割るシーンがありましたが、こちらもいつ恐ろしいショットが出てくるのか、視聴者をドキドキさせてきます…!
そして何よりこの映画を不気味なものにしているのが、父親を亡くした少年マーティンを演じる、バリー・コーガン。
近年では、『ダンケルク』『エターナルズ』『イニシェリン島の精霊』などで大活躍していますが、個人的にはこの作品が彼の人気のターニングポイントになっているのでないかと思います。
劇中でマーティンとその亡くなった父親がお気に入りだったと言い、鑑賞していた映画はビル・マーレイ主演の『恋はデジャ・ブ』。
まさかのハートフルコメディ映画がサイコホラーとも言える本作中に登場するのも違和感ありまくりで面白いのですが、『恋はデジャ・ブ』の本質的なテーマとして、
「人間の幸福は自分の中をいくら追求しても手に入るものではなく、他人の幸福によって得られる」
ということがテーマであると語られています。
ビル・マーレイ演じる主人公は、自分勝手で自己中心的な行動をしますが、最終的には自分ではなく、別の誰かのためになることに幸せを見出し、物語はハッピーエンドを迎えます。
『聖なる鹿殺し』の主人公、心臓外科医のスティーブンは、幾度となくマーティンからの誘いを断ったり、セリフや行動から、同じようにどこか利己的な人物だということを察することができます。
スティーブンの手術ミスによって大好きな父を亡くしたと考えているマーティンは、父のお気に入りだった映画の主人公と似たスティーブンには、ハッピーエンドを迎えてほしくないと思っていたのかもしれません。
(わざわざ一緒に鑑賞するところも皮肉めいていますね…)
少年マーティンは「恋はデジャ・ブ」のテーマの裏返しとも言えるような、「自分の幸福は他人の不幸によって得られる」という考えを持っていたのではないでしょうか。
そんなとびっきりの不幸を迫られた4人家族のラストの展開、救いようのない決断の末に何が待つのか…
ぜひ、皆さんの目で確かめてみてはいかがでしょうか。
予告編について
劇中、娘のキムがマーティンに捧げる歌で構成された予告編。
ストーリーへの言及が少ないにも関わらず、段々と不協和音も混じり合っていき、何か良からぬ方向に進んでいることだけはしっかり伝わってきますよね…
息子が倒れるシーンの音や、娘がライターの火をつける音、カーテンを閉める音、パスタを食べる食器の音。
日常に溶け込む普遍的な音を強調して、シーンの転換に使用する演出、かなりイケています…!
一番のポイントとしては、最後のタイトル前のシーン。
本編では冒頭付近にあるシーンですが、このマーティンの何気ない笑顔をラストに持ってくるだけで、なんと強烈な印象が残ることか…
予告編の魔法をひしひしと感じております。
最後に
いかがだったでしょうか。
この映画がお気に入りであれば、ヨルゴス・ランティモス作品は間違いなくすべてお勧めです!
まだ寡作なうちにぜひチェックしてみてください!
これからも随時、好きな映画を好き勝手レビューして参ります!