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予告編ディレクターが『アルキメデスの大戦』をレビューしてみた

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2023.10.27
STAFF

予告編ディレクターが『アルキメデスの大戦』をレビューしてみた

山崎貴 / ゴジラ-1.0 / アルキメデスの大戦 / レビュー / 映画

クレジット情報

『アルキメデスの大戦』 (2019年)
◆ 監督:山崎貴 (『ゴジラ-1.0』『ALWAYS 三丁目の夕日』『永遠の0』『寄生獣』 など)
◆ ジャンル:戦争、ドラマ
◆ キャスト:菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、國村隼、田中泯、舘ひろし ほか
◆ 配給:東宝

この映画を一言で表すなら

そう来たか! 歴史の新解釈&何層ものカタルシス

なぜこの映画を観たいと思ったのか?

これはもう、「山崎貴監督作品が好き!」という、個人的なこの点に限ります。

小学生の頃に観た、『ALWAYS 三丁目の夕日』が、山崎貴監督作品との出会いでした。
両親の感想と、劇中のノスタルジックな描写に、
当時子どもだった私にも、「懐かしさ」という感情を気付かせてくれたような気がしています。
そこからファンになり、『永遠の0』『寄生獣』など、その後の学生時代でも思い出深い作品です。

また山崎監督は実写映画に限らず、
『STAND BY ME ドラえもん』といった国民的作品の映画化、CMやMV、
さらには東京オリンピック2020開会式のクリエイティブ監修まで、
(↑こちらは大会延期等の問題で実現せずでした、残念…)
日本人には何かと馴染みのあるヒットメーカーと言えると思います。

そんな私なので、この『アルキメデスの大戦』公開時、観に行くのは当然の流れでした。
学生時代からの気の合う友人と、楽しみに映画館へ向かいました。

誰におすすめなのか?

私と同じ、山崎監督ファンにはもちろんなのですが、
歴史ものの映画が好きな方もいらっしゃるかと思います。
また山崎貴監督の描く戦争は、どの作品もかなり反戦メッセージ性が強く押し出されています。

本作は会議映画としての面が魅力的なので、レベルの高い役者陣の熱演が見どころです。
菅田将暉や浜辺美波といった若手俳優陣と、田中泯や舘ひろしといった重鎮俳優の、
白熱した演技をエンターテインメントとして楽しんでみてはどうでしょうか。

個人的には、奥野瑛太という俳優も出ており、嬉しかったポイントです。
最近の邦画が好きな方にも、とてもおすすめです。

どういうとき、気分のときに観るべきか?

間もなく公開される映画、『ゴジラ-1.0』を観る前にも、押さえておくべき作品だと思っています。
第二次世界大戦あたりである時代設定、その街並みや暮らす人々の描き方、
『ゴジラ-1.0』の予告編を見ても、海や戦艦といったVFX要素に通ずる部分があります。

骨太な人間ドラマ・エンターテイメント作品として、純粋に映像を楽しみたいときにもおすすめです。

総評

この映画を観て最初に抱いたのは、「そう来るのか!」という感情でした。

『アルキメデスの大戦』は、戦艦大和の欠陥を算出し、
建造、そして戦争を止めようとしたひとりの数学者の物語です。
もちろん、日本海軍は戦艦大和を建造し、その後戦争へと進んでいってしまうというのは、
歴史を見れば明らかな事実です。

しかし、絶対に揺らぐことのない史実にアプローチを仕掛ける映画がいくつか存在します。
この作品は、歴史の裏で起きていたかもしれない、
言わば歴史の行間を埋める物語を伝えてくれる映画として、興味深い解答を突き付けます。
まさに「そう来るのか!」です。映画の持つ力に、改めて気づかされた気がします。

歴史上、戦艦大和は戦果を上げられないまま、1945年にアメリカ軍の空襲により撃沈されています。

まず、映画冒頭で描かれているのは、この戦艦大和の沈没のさまです。
とてつもなく恐ろしく描かれています。

あの『タイタニック』でも見られた描写のように、
傾いていく船体、必死にしがみつく人や耐えきれず海へ落ちていく人、
海に浮かぶ人に覆い被さるようにひっくり返ってくる巨大な大和。
スクリーンを観ていてもそれを体感してしまう、恐怖の掴みのシーンです。

山崎貴監督の本領発揮である、最高峰のVFX技術がこのシーンの強度を高めており、
大和が遂に沈んでいく際に立ち込めている黒煙は、まさにキノコ雲のように、
その後日本が向かっていく悲劇を連想させます。

そして時代が、ここから12年前にさかのぼったところから物語はスタートしていくのですが、
結果を冒頭で見せることで、こんなにも恐ろしい未来が待っている、
悲劇はどうしても阻止しなければならないという思いで、観客は登場人物たちと重なるというわけです。

変人・天才な主人公、櫂直(かいただし)を演じたのは菅田将暉
彼でなければ生まれなかったであろう説得力と画力の連続で、非常にテンポが良い作りでした。

戦艦大和の建造計画を阻止するため、櫂は巻き尺ひとつでその欠陥や非合理性を暴こうとします。

柄本佑が演じた田中少尉と助け合い、バディムービーのようになっていくのもポイントのひとつです。
さらには山本五十六役の舘ひろし含め、各人のビジュアルが当時の軍人そのものに見えてきて、
全員がハマり役だなと感じます。(山本五十六は左手の指を失っているという事実でさえも、
VFXを使い全編通して再現されているという、地味にスゴイこだわりも伝わります…)

見どころは、櫂の数学者としての才能が発揮される、大和建造計画の決定会議のシーン
幹部たちのやり取りはもちろん、(しかしここでのやり取りがやがて、
おじさんの言い合いでしかない口喧嘩になっていく、というのもまた皮肉なものですが…)
欠陥を示すため櫂がようやく導きだしたある方程式を板書するシーンは、いつ見ても圧巻の熱演です。

この場面では特に、作曲家・佐藤直紀氏による劇伴「重大な欠陥」という楽曲が素晴らしく、
その方程式で欠陥を見事に示していくというひとつのカタルシスを後押しし、盛り上げる、
興奮せずにはいられない一曲です。何度もサントラを聴き返してしまいます。

菅田将暉の突き抜けた演技。というより、底力が実にすごい名場面となっています。

※↓本編のネタバレを含みます!

さて、たとえ欠陥を暴いたとしても、戦艦大和の建造と戦争を止められなかったという事実は、
歴史にある通りと話しましたが、カタルシスとなるのは会議のシーンだけではありません。

田中泯演じる、平山造船中将。この人物こそが戦艦大和の設計者。
今作の櫂直における、ヴィラン的存在です。重みのある、圧倒的な存在感でした。

彼の口から明かされる、大和建造の本当の意味

それは、日本という国の象徴・シンボルである戦艦大和をわざと沈めさせることで、
日本人に敗戦を意識させ、正気に戻し、目覚めさせるためのもの
、という真実でした。

これに、櫂自身も言葉を失ってしまいます。

あの、世界最大の戦艦の新たな解釈が明かれたとき、本当に驚愕しました。
それでいてなんて恐ろしい考えなんだと、ひとり達観していた平山中将の凄みに、驚きました。

これこそが、この現実が、さらなるカタルシスとなっており、
ストーリー展開を純粋にも楽しんでいた私は、この終盤の展開に打ちのめされてしまいました。

実話なのだろうかと思ってしまうほど、彼の真意の説得力がやはり強く、
反戦として、また風刺としても、メッセージ性を感じるものでした。

その船は、沈みに行くという役割を背負い、暗い雲が立ち込めている方へと出航していきます。
映画冒頭で既に、沈んでいくさまを見せつけられているわけなので、
どうしたって結局は辿り着いてしまう結果へのやるせなさにも包まれる名シーンです。

大和の出航を見送っている櫂もまた、
それを知ったうえで、とんでもない決断を背負ったうえで泣いている様でした。

私も観終わったあと、隣の席の友人ともすぐに話をし始めてしまうほどに、衝撃的で見事な締め方です。

予告編について

ナレーターは窪田等氏。「情熱大陸」のナレーションでもお馴染みです。
実は本編中のナレーションも担当されていますが、
歴史ものである本作にはピッタリで、この映画の力をさらに強められる人選です。

そして、映像面でも非常にスケールの大きい大和の登場です。まさに「世界最大・世界最強」
(平山中将が、船を名付けるシーンは本編中でも屈指の名場面でした…)

「戦争を断ち切らねばならない」という山本五十六の呼び声に対し、
天才数学者・櫂直が現れ、そこから予告編も一気に加速していきます。
変人ぶりも際立つ印象的なセリフと、
大和の欠陥を暴くという難関の壁に立ち向かう、様々な登場人物の様子にワクワクします。

本作のアピールポイントと言えば、やはり「山崎貴監督印のVFX」です。

最後は、豪快な戦闘シーンを連想させるカットで締めくくられており、
ビジュアルとして、圧倒的に派手な予告編となっています。

最後に

余談ですが、今週末、長野県の松本市美術館で開催されている『山崎貴の世界』という展示会に、
滑り込みで行ってこようと思っています(笑)

来たる11月3日、山崎監督最新作『ゴジラ-1.0』も遂に公開されます。
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の冒頭でも、ゴジラをゲスト出演させていますが、
念願であるゴジラの本編を創り上げたということで、非常に期待します。

これまでに描いてきた戦艦が、新作ではどのように作用してくるのかも、楽しみです。
皆さんも、『ゴジラ-1.0』の公開というお祭りの予習に是非、
このタイミングだからこそ、『アルキメデスの大戦』をご覧になってみてはいかがでしょうか。

それでは、次回の映画レビューもお楽しみに!

この記事を書いた人
Yusuke Hishinuma
Yusuke Hishinuma
【C.E.S チーフエディター】

幼い頃から映画に興味を持ち、高校卒業後、専門学校へ進学。映画・映像制作全般について学ぶ。映画の年間鑑賞本数は200本超。最新の映画予告編も欠かさずチェック。多種多様な映像作品から得られるノウハウは、自身の制作現場において大いに生かされている。モーショングラフィックスとテキストアニメーションを得意とし、各所から定評がある。

幼い頃から映画に興味を持ち、高校卒業後、専門学校へ進学。映画・映像制作全般について学ぶ。映画の年間鑑賞本数は200本超。最新の映画予告編も欠かさずチェック。多種多様な映像作品から得られるノウハウは、自身の制作現場において大いに生かされている。モーショングラフィックスとテキストアニメーションを得意とし、各所から定評がある。

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